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東京地方裁判所 平成2年(ワ)6861号 判決 1992年7月02日

主文

1  被告は、原告に対し、金二六三二万三二〇〇円及びこれに対する平成二年六月一六日から支払済みに至るまで年二割四分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

4  この判決は、主文1項に限り、仮に執行することできる。

理由

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金七八四四万六八七五円及びこれに対する平成二年六月一六日から支払済みに至るまで年二割四分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者間に争いのない事実

一  当事者

1  原告はニューズ、一般情報、写真用資料蒐集販売、賃貸及び著作権の取得及び譲渡等を目的とする会社であり、被告は教育に関する研究資料の製作、販売及び各種出版、印刷等を目的とする会社である。

2  原告の主たる営業形態は、カメラマン等写真の著作権者から写真及びその著作権を受託し、これを雑誌社等に対し雑誌等への掲載を目的として写真の著作権の使用を許諾し、その対価として一定の使用料を受け取るものである。

二  原告と被告との契約の締結

原告は、被告に対し、別表1ないし4各記載の写真(以下「本件写真」という。)を被告発行の雑誌「ニュートン」及び「コモンセンス」掲載のために次の内容の写真貸出使用規定に基づいて貸し渡した。

1  被告は、預かつた写真につき受け取つた日から一週間後の使用決定日までに使用の有無を原告に通知する。通知がない場合には、使用しない旨の決定をしたものとみなす。

2  使用しないと決定された写真は、その決定の日から一週間以内に原告に返還しなければならない。

3  使用すると決定された写真は、その決定の日から三ケ月以内に使用を完了し、原告に返還しなければならない。使用する旨の決定をした後も一週間以内であればその決定を取り消すことができるが、その場合には、一週間以内に写真を返還しなければならない。

4  写真の返却には原告の写真返却受領証に確認を受けなければならないものとし、写真返却の有無について争いがある場合には、写真返却受領証によつてのみ決定するものとする。

5  被告が写真を紛失、滅失又は破損した場合には、使用料の五倍に相当する金額を原告に支払う。写真の使用、不使用にかかわらず、返却すべき日から三ケ月以内に被告が写真を返却しない場合は、その写真は、紛失されたものとみなす。

6  被告が本契約に基づく金銭の支払を遅延した場合には、月二パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

三  本件写真の預り

被告は、本件写真(ニュートン関係二四七点、コモンセンス関係五九点)を原告から預かつた。

四  本件写真の返還

被告は、原告に対し、本件写真中、一六九点(ニュートン関係別表3のとおり一四三点、コモンセンス関係別表4のとおり二六点)を平成元年七月以降に返還した。

第三  争点

一  原告の主張

1  被告は、本件写真のうち、一六九点をその返却すべき日から三ケ月を経過した後である平成元年八月以降に返却し、残余の一三五点(ニュートン関係別表1のとおり一〇二点、コモンセンス関係別表2のとおり三三点)についてはいまだに返却しない。

よつて、原告は、前記写真貸出使用規定に基づき、本件写真をすべて被告において紛失したものとして、別表1ないし4記載のそれぞれの使用料の五倍に相当する約定損害金合計七八四四万六八七五円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成二年六月一六日から支払済みに至るまで約定の年二割四分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  被告は、本件写真貸出使用規定が公序良俗ないし信義誠実の原則違反を理由として無効である旨主張するが、この規定は合理的なものであり、有効なものである。すなわち、

本件写真の使用料は、多数回使用可能な写真の著作権の一回の使用の対価であり、原告は、多数回の使用を前提として一回の使用の対価を定め、また、被告も一回の使用料としての経済的合理性を認め得るからこそ原告から写真の使用許諾を受けているものであり、かかる写真を紛失し、その著作権の使用許諾を不可能とし、原告の将来得べかりし利益を喪失させているのであるから、その使用料の五倍相当の違約金を損害賠償額として予定することはむしろ控え目な金額の定めであり、妥当なものである。

さらに、三ケ月の返却遅滞をもつて紛失と同じ扱いをすることは、<1>写真という商品の性質上時事性が高く、短期間に集中的に使用されるものが多いこと、<2>多数の写真を取り扱う業者としては、画一的基準をもつて処理せざるを得ないこと、<3>原告は、主に海外の著作権者から写真及びその著作権の使用を許諾されているにすぎず、写真の管理について厳格な責任を負つていること、<4>原告の契約の相手方がその著作権の重要性を十分認識している出版社、広告業界等に限られていること等の理由により十分な合理性を有するものである。

被告が受ける制裁額が多額になつたのは、被告が多数の写真の返還を怠つたことによるものであつて、結果的に損害額が高くなつたことは、本件写真貸出使用規定の有効性を何ら左右するものではない。

3  返還された写真については、原告は、約定に基づく返却期間を徒過したことによる約定損害金の支払を求めているものであり、被告の主張は理由がない。

4  原告の請求は、写真貸出使用規定に基づく約定損害金の支払請求であり、不法行為に基づくものでないから、民法七二四条の規定の適用はない。

5  原告の被告への写真貸出は、原告が保有する写真著作権の使用許諾契約に基づくものであり、その手段として写真が交付されているにすぎず、動産の賃貸借には該当しない。

仮に、本件写真の貸出が動産の賃貸借に該当するとしても、本件のような、借主においても、営業を目的とし、継続的、かつ、組織的に行われる動産の賃貸借には、民法一七四条五号の規定は適用されるべきでない。

また、仮に同条項の適用があるとしても、同条項は、賃料に関するものであり、損害賠償請求権には適用されないので、被告の主張は理由がない。

6  原告が写真返却受領証の発行手続をルーズに運用したことはなく、また、原告は、被告による写真の返還が滞りがちになつてから再三にわたり口頭、書面により写真の返還を催告していたのであり、原告に過失があつたことを前提とする過失相段の主張は理由がない。

二  被告の主張

1  原告が認めている一六九点のほかの本件写真についても、すべて返却済みである。

なお、損害賠償が認容される場合でも、被告が使用した場合の使用料は、韓国版及び台湾版の使用料を含め、通常の六割増となつているので、使用していないものについては、本来の使用料に基づいて損害の計算がされるべきである。

2  原告の主張する写真貸出使用規定は、返還したものについても紛失とみなす旨定めると共に、使用料の五倍に相当する損害金の支払を請求できる旨定めており、これによつて被告が受ける制裁は、過大、過重であり、かかる規定は、公序良俗違反ないし信義誠実の原則に違反し、無効である。

3  原告の請求は、本件写真を被告が紛失したことを理由とするものであるが、被告が原告に返還した写真については、紛失に該当しないから、この部分については、原告の請求は理由がない。

4  原告の請求権は、所有物返還請求権に代わる填補賠償請求権であり、その法律的性質は不法行為に基づく損害賠償請求権であるので、原告の紛失を理由とする損害賠償請求権については、三年の経過により時効消滅するものであるから(民法七二四条)、昭和六二年六月七日までに紛失とみなされたものについては、時効が完成しているので、原告は、時効を援用する。

紛失したとみなされるものは、借り受けた日から一週間の検討期間、その経過後一週間の返却期間及びその経過から三ケ月を経過したものであるから、結局、昭和六二年三月七日以前に使用決定日が到来している写真については、消滅時効が完成していることになる。

5  被告の借り出した写真に関する損害賠償請求権について、動産の損料に関する民法一七四条五号の規定が適用されるから、本件請求権は、平成元年六月七日までに被告が借り出した写真については、すべて時効が完成しているので、被告は、これを援用する。

6  原告が未返還の写真について、写真返却受領証の発行を確実に行つていなかつたほか、返還請求を二年ないし五年もしないまま、放置していた過失があるので、このため、被告の調査は困難となり、また、被告が原告からの写真の借出を止めた途端に二年ないし五年前に遡つて損害賠償を請求したものであり、損害賠償請求が認められるとしても、その損害金について過失相殺をすべきである。

第四  証拠関係《略》

第五  争点に対する判断

一  写真貸出使用規定の存在

原告と被告との写真の使用に関する契約に原告主張の写真貸出使用規定が定められていることは前記のとおりである。

これによると、被告は、原告に対し、原告から預かつていた写真を紛失した場合には、使用料の五倍相当額の支払の義務があることを、また、所定の期限(使用しないものについては使用決定日の一週間以内、使用する旨の決定がされたものについては使用決定日の三ケ月以内)までに返却しない場合にも、使用料の五倍相当額の支払義務があることを約している。

二  原告と被告との取引の実態

《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

1  原告は写真の貸出等を業とする業者の団体である日本写真エージェンシー協会に属しているが、同協会では、写真貸出について標準的な基準を設けており、写真を紛失した場合には、使用料の一〇倍又は一五万円以上の補償金を請求する旨及び返却が遅れた場合には貸出料金を請求する旨を、そして細目については、各エージェンシーの貸出規定による旨を定めている。

原告の同業者の定める貸出規定でも、紛失の場合にはオリジナルについて三〇万円以上、デュープ(複製)について一五万円以上、返却遅滞について一週間につき五〇〇〇円の割合と定めているところもあつた。

2  原告は、海外の写真家や、写真のエージェンシーから報道写真を中心とする各種の写真のオリジナルや、デュープを預かり、国内の出版社等に写真の使用許諾をすることを主たる業務としているものであり、預かつている写真等が紛失した場合には、委託者から損害賠償の請求を受ける立場にあつた。

そこで、原告は、右協会の規定や、他の業者の規定等を参酌して、紛失の場合の保証金を使用料の五倍と定め、また、返却すべき日から三ケ月以内に返却がされない場合には紛失したものとみなすものと定めた。

3  原告は、写真を貸し出す場合には、貸出台帳に貸出日、写真のコード番号、内容、使用決定予定日及び数量等を記載したうえ、写真のコード番号、内容、数量及び使用料並びに貸出日の一週間ないし一ケ月後の期日を使用決定日と記載した写真預り証へ相手担当者の署名をして貰うことと引換えに写真を相手に引き渡しており、この指定がされない場合でも、一ケ月以内に使用の有無の決定がされるものと予定して貸出を行つていた。

しかし、被告側では、貸出を受けた写真を使用するかどうかが確定するのは、特集号の場合等には、貸出を受けた日から二、三ケ月後になることも稀ではなかつた。

そして、原告は、貸し出した写真について使用料金が定められたときにはその旨を貸出台帳に記載し、さらに、当該写真が返却されたときは、原告の担当者がその場で被告の担当者宛に写真返却受領証を交付したうえ、その旨を貸出返却台帳に記載する扱いであつたが、写真返却受領証を後に郵送する例も少なくなかつた。

なお、原告の貸出台帳の記載も完全ではなく、貸し出されたのに記載がなかつたものや、返却されていたのにその旨の記載がなかつたものもあり、そのため、訴訟提起前の交渉の際には、返還請求をしていなかつたのに本訴の段階で訴えの対象としたものや、訴え提起後返還を認めるに至つた写真も存在する。

4  原告は、被告に対し、三五ミリ版写真一点当たり三万五〇〇〇円を標準として使用を認めていたが、被告が「ニュートン」について韓国版及び台湾版を発行していたため、それに掲載される分を含め、「ニュートン」の掲載分についてはその六〇パーセント増しの五万六〇〇〇円が基本的な使用料となつた。

5  ところで、原告と被告との写真使用に関する取引は、昭和五六年頃から昭和六三年頃まで続けられた。

その間、被告は、原告から貸出を受けた写真の管理が十分でなかつたため、原告は、数回にわたり未返還写真の返却を催促していたが、返却手続が進捗しないため、平成元年四月一七日、同年五月末日までに未返却の写真についてはしかるべき手続をとる旨を通告した。

被告は、その一年前から原告側の督促に基づき未返却写真の整理に当たつていたが、平成元年八月一六日、それまでに発見された写真一二八点を原告宛に引き渡した。

6  原告は、未返還写真のうち、昭和五九年末までに貸し渡したもの及び原告会社の帳簿上資料が不十分なものに関しては、本件請求の対象外とした。

7  なお、「コモンセンス」は、昭和六一年九月に廃刊となつたため、被告では、その時点で預かつていた写真等はすべて返却処理をした。

以上の事実が認められる。

三  本件写真の返却の有無

被告は、本件写真中未返却とされるものについて全部返却した旨主張し、《証拠略》中にはそれに沿う部分がある。そこで、以下、個別的に判断する。

1  別表1の1ないし3について

《証拠略》によれば、被告の担当者清水潔は、昭和六〇年六月二五日別表1の1及び3を、その頃別表1の2をそれぞれ原告から貸出を受け、被告では当該写真をニュートンの昭和六〇年一〇月号に使用したこと、清水が原告から別表1の2と同時に預かつていた三五ミリ版のうち使用しなかつた三四点については昭和六〇年八月二九日頃原告に返却したことが認められる。

《証拠略》中には、右使用した写真三点を使用直後返却した旨の記述部分があるが、前記したように原・被告間の約定では、返却の有無が争いとなつた場合には写真返却受領証によつて決することとされているところ、被告が写真返却受領証を受け取つたことを認めることのできる証拠はないから、右記述部分は信用することができない。

2  別表1の5及び38について

《証拠略》によれば、被告の担当者名輪裕は、昭和六〇年八月一六日別表1の5を、昭和六三年二月一二日別表1の38をそれぞれ原告から貸出を受け、被告では前者の写真をニュートンの昭和六一年一一月号に使用したこと、名輪が原告から別表1の5と同時に預かつていた三五ミリ版のうち使用しなかつた三一点については昭和六〇年八月下旬頃原告に返却し、また、別表1の38と同時に預かつていた三五ミリ版のうち使用しないことが明らかな二四点については貸出後間もなく返却したことが認められる。

《証拠略》中には、別表1の5の写真は使用直後返却した旨及び別表1の38の写真は昭和六三年五月号に使用予定であつたが不使用と決定後間もなく返却した旨の記述部分があるが、前記したように原・被告間の約定では、返却の有無が争いとなつた場合には写真返却受領証によつて決することとされているところ、被告が写真返却受領証を受け取つたことを認めることのできる証拠はないから、右記述部分は信用することができない。

なお、別表1の5の写真が使用された時期は、原告の資料によつても昭和六一年一一月のところ、甲第五号証の請求書の日付が昭和六一年一月になつている理由は納得できず、他回の使用分の使用の疑いもある。

3  別表1の6、7及び13について

《証拠略》によれば、被告の担当者黒島哲夫は、昭和六〇年八月二九日別表1の6及び7を、昭和六一年三月一七日別表1の13をそれぞれ原告から貸出を受け、被告では前者の写真をニュートンの昭和六〇年一一月号に、後者をニュートンの昭和六一年七月号に使用したことが認められる。

《証拠略》中には、別表1の6、7及び13の写真は昭和六二年一月頃返却した旨の記述部分があるが、前記したように原・被告間の約定では、返却の有無が争いとなつた場合には写真返却受領証によつて決することとされているところ、被告が写真返却受領証を受け取つたことを認めることのできる証拠はないから、右記述部分は信用することができない。

4  別表1の18について

《証拠略》によれば、被告の担当者鈴木健一は、昭和六一年六月二四日別表1の18を原告から貸出を受け、被告ではこれをニュートンの昭和六一年一一月号に使用したこと、この写真と同時に原告から貸し出されていた写真三〇点については、貸出後間もなく被告から原告宛に返却されたことが認められる。

《証拠略》中には、別表1の18の写真は昭和六一年一一月頃返却した旨の記述部分があるが、前記したように原・被告間の約定では、返却の有無が争いとなつた場合には写真返却受領証によつて決することとされているところ、被告が写真返却受領証を受け取つたことを認めることのできる証拠はないから、右記述部分は信用することができない。

5  別表1の27について

《証拠略》によれば、被告の担当者桜井敏昭は、昭和六二年一月二二日別表1の27の貸出を原告から受け、被告ではこの写真と同時に借り出した四点の写真をニュートンの昭和六二年四月号に使用したこと、この写真と同時に原告から貸し出されていた写真三〇点については、貸出後間もなく被告から原告宛に返却され、また使用された四点の写真は、平成元年八月一六日までに返却されたことが認められる。

《証拠略》中には、別表1の27の写真は昭和六二年頃返却した旨の記述部分があるが、前記したように原・被告間の約定では、返却の有無が争いとなつた場合には写真返却受領証によつて決することとされているところ、被告が写真返却受領証を受け取つたことを認めることのできる証拠はないから、右記述部分は信用することができない。

なお、本件27の写真は、使用されたものではないし、その他同時に貸出のあつた写真は、貸出後間もなく返却されているのであるから、本件写真一点も返却された疑いも否定できないが、写真返却受領証による返却の立証がない以上、右のように判断するほかない。

6  別表1の30について

《証拠略》によれば、被告の担当者ジャン・バルセロは、昭和六二年四月二〇日(原告の帳簿上は四月三〇日となつている。)別表1の30の貸出を原告から受け、被告ではこの写真と同時に借り出した四点の写真をニュートンの昭和六二年五月号に使用したこと、原告は、本件写真の返却の請求を平成元年四月の段階ではしておらず、本訴の提起に至つて請求したことが認められる。

被告は、この写真も返却した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、前記したように原・被告間の約定では、返却の有無が争いとなつた場合には写真返却受領証によつて決することとされているところ、被告が写真返却受領証を受け取つたことを認めることのできる証拠はないから、右記述部分は信用することができない。

7  別表1の31について

《証拠略》によれば、原告が同年五月八日、被告に対し使用料として三〇万円の請求をしたことが認められる。

そして、甲第七八号証中には、被告が同年四月二八日、別表1の31記載の写真九点を借り出した旨の記述部分がある。

しかし、《証拠略》によれば、被告は、本件九点の写真を昭和六〇年七月号に掲載するため借り出し、使用後間もなくそれを返却したものの、再度同じ写真を昭和六二年五月刊行のニュートン別冊号「バイオテクノロジー」に掲載するため、前の掲載の際に作成した製版フィルムを使用し、写真再使用の使用料を原告に支払つたこと(再使用であるため、使用料は、一点当たり三万三三三三円と低額であること)が認められる。

右事実によれば、別表1の31記載の写真の未返却の趣旨の甲第七八号証の記載部分は信用することができず、そのほか原告が被告に当該写真の貸出を行つたことを認めることができる証拠はないから、この点の原告の請求は理由がない。

なお、右認定の経緯によれば、原告の保管している写真の保管は完全ではなく、返却された写真がコード番号による所定の箇所に完納されていないことを窺わせるものであり、このことは、後記するように過失相殺の際に考慮する。

8  別表1の33について

《証拠略》によれば、原告は、被告が別表1の33の写真を、ニュートンの昭和六二年九月号に使用したとして、その使用料五万六〇〇〇円の支払請求をしたことが認められる。

しかし、《証拠略》によれば、被告は、当該写真をコモンセンスで使用したことはあつたものの、ニュートンで使用したことはなかつたこと、コモンセンスで使用したものについては、使用後間もなく返却していること(なお、コモンセンスは前記認定のとおり昭和六一年九月頃廃刊となつていた。)が認められる。

右事実によれば、別表1の33記載の写真の未返却の趣旨の甲第七八号証の記載部分は信用することができず、そのほか原告が被告に当該写真の貸出を行つたことを認めることができる証拠はないから、この点の原告の請求は理由がない。

なお、右認定の経緯によれば、原告の保管している写真の保管は完全ではなく、返却された写真がコード番号による所定の箇所に完納されていないことを窺わせるものであり、このことは、後記するように過失相殺の際に考慮する。

9  別表1の37について

《証拠略》によれば、被告の担当者桜井敏昭は、昭和六二年一二月二五日(原告の帳簿上は昭和六三年一月一一日となつている。)別表1の37の貸出を原告から受け、被告ではこの写真をニュートンの昭和六二年五月号に使用したこと、原告は、本件写真の返却の請求を平成元年四月の段階ではしておらず、本訴の提起に至つて請求したこと、被告は、当該写真と同時に借り出した二点の写真については借出後間もなく原告に返却していたが、原告の帳簿には右返却の事実が記載されていないことが認められる。

被告は、この写真も返却した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、前記したように原・被告間の約定では、返却の有無が争いとなつた場合には写真返却受領証によつて決することとされているところ、被告が写真返却受領証を受け取つたことを認めることのできる証拠はないから、右記述部分は信用することができない。

なお、被告から返却されている写真二点について原告の帳簿に記載がないのは、貸出直後に返却されたため、使用された一点のみが貸出として記載されたものと推認される。

10  別表1の39について

《証拠略》によれば、被告の担当者桜井敏昭は、昭和六三年八月八日原告から別表1の39記載の写真の貸出を受け、被告ではこの写真をニュートンの同年九月号に使用したが、その返済を怠つていたため、原告からの返還請求に基づき、平成元年八月一六日までに返却したことが認められる。

右事実によれば、当該写真の紛失を前提とする原告の請求は理由がない。

11  別表1の40について

甲第七三号証中には、被告の担当者片井建夫が昭和六三年九月一六日別表1の40の写真を含むフランスの原子力発電所の写真三点(三五ミリ版及び五六版)を原告から借り出し、その内一点については同年一〇月一五日に返却し、一点については同月一七日使用が決定された旨の記載がある。

また、右甲第七三号証と同様に原告の貸出経過を管理する帳簿である甲第七八号証中には、被告の担当者松山明が昭和六三年一〇月一七日同じ写真コードの写真一点(ただし、七六版)の貸出を受け、被告ではこの写真をニュートンの昭和六三年一一月号に使用したこと、その分の写真は同年一〇月一五日に返却を受けた旨の記載がある。

他方、《証拠略》中には、このコード番号の写真を被告ではニュートンの昭和六三年一一月号に使用し、当該写真は同年一一月に返却した旨の記載がある。

ところで、《証拠略》によれば、原告が返却を求めているこのコードの写真は、使用されなかつた三五ミリ版一点であること、その写真の貸出を受けたのは被告の担当者片井建夫とされていたことが認められるが、右各書証の記載内容を比較すると、原告から被告への貸出の有無を直接に立証する証拠がない限り、右貸出の経緯が明らかでなく、記載の誤記も疑われるので、当該写真の紛失を前提とする原告の請求は認めることができない。

12  別表1の41及び43について

《証拠略》によれば、被告の担当者瀬川茂子は昭和六三年九月二二日頃(甲第七三号証中では九月二二日貸出とされているが、甲第七八号証では九月二四日とされている。)別表1の41記載の写真二点(四五版)の貸出を受け、また、被告の担当者宇都宮某は同年一一月九日頃別表1の43記載の写真二点(b/w版)の貸出を受けたこと、被告では前者をニュートン(日本版のみ)の同年一一月号及び一二月号に使用したが、後者は使用しなかつたこと、後者の内一点は同年一二月八日に返却され、残りのものは原告から返還請求を受けた後である平成元年六月一五日に原告宛書留郵便で返送されたことが認められる。

原告は、41及び43記載の各一点の写真が未返却である旨主張するが、右記述部分は、《証拠略》に照らし信用することはできない。

してみると、当該写真の紛失を前提とする原告の請求は理由がない。

13  その他のものについて

被告は、原告が紛失したと主張するもののうち、右個別に判断したもの以外のものについても、返却した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。確かに、前記認定した個別事案に照らすと、返却がされたものの、原告の帳簿に記載されず、あるいは所定の箇所に挿入されないため未返還との扱いを受けているものの存在も疑われるが、前記したように返却の有無については、争いとなつた場合には写真返却受領証によつて立証されねばならないところ、その点について立証がない以上返却がなかつたものとして処理するほかない。

四  被告の主張について

1  写真貸出使用規定の有効性について

被告は、本件写真貸出使用規定が、公序良俗違反ないし信義誠実の原則に違反するものであり無効であると主張している。

(一) まず紛失の場合についてである。この場合には、写真貸出使用規定が使用料の五倍に相当する金額を請求することができる旨定めていることは前記のとおりである。

そして、原告のように他人の写真を預かり、その写真の使用を許諾し、その使用対価を取得することを業とするものが、貸し出した写真の返還を受けられない場合には、その紛失者に対して損害賠償の請求をすることができることは当然であるところ、その損害額を予め貸出の際に合意することも許されるところである。被告は、右写真貸出使用規定の存在を承知しながら本件写真を借り出したものであるから、原・被告間には右損害額についての合意が存在したものと認められるが、その合意が社会的に妥当性を著しく欠くものであればともかく、そうでなければ被告は、右合意に拘束されることは当然である。

確かに、原告が貸し出した写真の大部分は、外国からの預かりであることに鑑み、デュープ(複製)であるものと推認されるが、そうであつたとしても、原告としては、委託者に対して紛失に伴う損失を賠償すべき義務もあるし、また、再度複製の送付を受けるにしても、その間は写真貸出ができず、貸出に伴う利益を得ることができないのであるから、前記認定の同業者の貸出規定の定めに照らしても、使用料の五倍相当の損害金は、著しく社会的合理性を欠くものということはできず、この点に関する被告の主張は理由がない。

(二) 次に返還遅滞の場合についてである。この場合にも、写真貸出使用規定が三ケ月以上遅滞したときは、紛失したものとみなすこととしていることは前記のとおりであり、これによると、被告は、使用料の五倍相当の損害を支払うべきことになる。

そして、この場合にも、原告のように他人の写真を預かり、その写真の使用を許諾し、その使用対価を取得することを業とするものが、所定の期限までに貸し出した写真の返還を受けられない場合には、遅滞に伴つて他に使用許諾をすることができず、その間使用料を得ることができなくなつているのであるから、この遅滞者に対して損害賠償の請求をすることができることは当然であるところ、その損害額を予め貸出の際に合意することも許されるところである。被告は、右写真貸出使用規定の存在を承知しながら本件写真を借り出したものであるから、原・被告間には右損害額についての合意が存在したものと認められるが、その合意が社会的に妥当性を著しく欠くものであればともかく、そうでなければ被告は、右合意に拘束されることは当然である。

しかし、遅滞した場合に、紛失と同額の損害賠償を認めることが社会的に妥当かどうかは別問題である。紛失の場合とは異なり、返還が遅滞した場合に貸し出した原告が被る損害は、返還まで使用許諾をすることができず、その許諾に伴う利益を得られなかつたことによるものであるところ、返却後は容易に使用許諾をして使用料を得ることができるし、原告が委託者に対して負担する損害も紛失の場合とは異なると推認される(返還遅滞に伴う損害を委託者に支払うことは稀であると推認されるし、支払うとしても紛失の場合の額より小額であると推認される。)ことに鑑みると、使用料の五倍相当額が損害と定めることは合理的であると認めることはできない。確かに、前記したように被告が返還したのは平成元年八月以降であるところ、《証拠略》によれば、それら返却された各写真の貸出日は別表3及び別表4記載のとおりであることが認められ、返還までに長期間を要しているが、そのことを考慮しても、五倍が合理的と判断することができる特別な事情の存在を認めることができない。原告は、本件写真が時事性が強く短期間に集中して使用される性質のものであると主張し、原告の預かる写真が報道写真等時事性の強いものが中心的であつたことは前記認定のとおりであるが、本件写真がその遅滞の期間中に平均して数回以上使用された可能性が強いことが立証されない限り、五倍賠償の定めが社会的に合理性があるものと認めることができない。そして、本件では、その点の立証はない。

原告は、このほか、画一的処理の必要性、海外の著作権者に対する責任の存在、原告の取引先が出版者等に限られていることを理由に五倍の定めが合理的である旨主張するが、これらの事情のうち、一番目のものは右判断に影響を与えるものではないし、二番目のものは前記判断で斟酌済みの事柄であり、三番目のものも原告を始め同業者が画一的に返還遅滞の場合に必ず所定の損害金の支払を受けていることの立証がない限り(本件においては、その点の立証はない。)、右判断を覆す事情とはならない。

また、前記認定した同業者の遅帯損害金の定めも原告の定めにより低額である。

右諸事情を考慮すると、返還遅滞の場合について使用料の二倍を超える損害を定めている約定部分は、著しく社会的妥当性を欠くもので、その効力を認めることは相当でない。

したがつて、本件写真の返還遅滞に伴う損害賠償については、使用料の二倍相当額の限度で認めるのが相当である。

2  消滅時効の主張について

(一) 原告は、原告の本件請求について、民法七二四条が適用されるべきである旨主張する。

しかし、原告の本件請求は、約定に基づく損害賠償請求であるから、民法七二四条の適用の余地はないので、被告のこの点に関する主張は、その余について判断するまでもなく理由がない。

(二) また、原告は、原告の本件請求について、民法一七四条五号の規定が適用されるべきである旨主張する。

しかし、原告の本件請求は、約定に基づく損害賠償請求であり、使用料の支払請求でもないから、民法一七四条五号の適用の余地はなく、被告のこの点の主張は、その余について判断するまでもなく理由がない。

3  過失相殺の主張について

本件事案は、貸出を受けた写真の保管、管理が不十分なために生じたものであることは前記認定したとおりであるが、他方、原告側にも、原告が未返還と主張した写真が当初の請求時点から増加したり、また、未返還と主張していたものが返却済みであつたり、さらに、貸出がされていないものが貸出として記帳されていたり等原告側の管理体制が不十分なことが、本件写真の紛失及び遅滞の発生、特に本件のような多量の紛失、遅滞に影響を与えたものと推認される。すなわち、貸出後、もつと早い時期に、もつと適切な返還請求を行つていれば、本件事案のように多量の写真の紛失や、返還遅滞の発生が防止できたものと推認されるところである。その意味では、本件事案は、被告の管理体制の不十分さに起因するものではあるが、原告側にも適切な対処をしていなかつた面があり、原・被告両者の管理体制が不十分なことが事故を大きくしたものというべきである。

右事情によると、原告の本件請求については原告側の落度(過失)を斟酌し、原告が被告に対し支払請求ができるものは、本来認容されるべき金額について、二割の過失相殺をし、残額の八割に限つて認容するのが相当である。

五  原告の請求について

1  使用料について

前記認定のとおり原告の基本使用料金は、三五ミリ版で三万五〇〇〇円であつたが、被告のニュートンについては韓国版及び台湾版にも使用するためその六割増の五万六〇〇〇円であつたところ、《証拠略》によれば、三五ミリ版の場合も見開きに使用される場合は基本料金四万円であり、六・六版の場合には基本料金六万八〇〇〇円、四・五版の場合には基本料金四万円、八・一〇版の場合には基本料金二五万円、b/w版の場合には基本料金一万五〇〇〇円であつたこと、また、三五ミリ版も大きく使用される場合には一点当たり七万円となることもあつたこと、しかし、同時に多数の写真を使用する場合には、一点の使用料が基本料金の二四パーセント程度割引の場合もあつたことが認められる。

右認定によると、紛失した場合の損害の計算の基礎となる使用料は、基本料金によるほかない。ニュートンでの使用の場合には韓国版及び台湾版の関係で六割増の使用料となつているが、紛失されて使用されていない場合の損害は、紛失しなければ得られたであろう料金を基礎として算出されるべきものであるところ、ニュートンで使用される蓋然性が極めて高いと推認することができないので(被告以外での使用の場合でもニュートンと同額となる保証もない。)、通常の原告の基本料金を基礎とするほかないからである。したがつて、三五ミリ版については一点当たり三万五〇〇〇円、四・五版については四万円、六・六版については六万八〇〇〇円、b/w版については一万五〇〇〇円を前提とすべきである。

なお、八・一〇版については、右認定のように基本料金は二五万円であるが、本件写真中、唯一の八・一〇版である別表1の17について、原告は、使用料として、一点当たり五万六〇〇〇円と主張しているので、本件ではこれを前提とする。

また、三五ミリ版のうち、原告が単価を三万五〇〇〇円よりも低いものと主張しているもの(別表2の10及び31並びに別表2の31については三万円、別表3の16については三万二〇〇〇円、別表4の8については三万三〇〇〇円、同表の9、11、12、13及び16については二万八〇〇〇円、同表の29については二万五〇〇〇円)については、右主張額によつて計算するのが相当である。

2  《証拠略》によれば、本件写真中、別表1の2の写真が六・六版、同表の6及び41並びに別表3の41の写真が四・五版、同表の17が八・一〇版、同表の43及び別表2の35がb/w版であるが、その他の写真はすべて三五ミリ版であることが認められる。

3  右認定事実、前記認定した写真の各基本料金、原告が未返還と主張しているがそれを前提とする請求が認められない写真の存在(別表1の31、33、39、40、41及び43)及び認められるべき損害賠償の割合(紛失について使用料の五倍、返還遅滞について使用料の二倍)によれば、原告が被告に対して本来請求することのできる損害賠償額は、次のとおり三二九〇万四〇〇〇円である。

(一) ニュートン紛失分(別表1分)

84×35、000×5+40、000×5+68、000×5+112、000×5=15、800、000

(二) コモンセンス紛失分(別表2分)

29×35、000×5+15、000×5+3×30、000×5=5、600、000

(三) ニュートン返還遅滞分(別表3分)

118×35、000×2+32、000×24×2+45、000×2=9、886、000

(四) コモンセンス返還遅滞分(別表4分)

11×35、000×2+25、000×2+12×28、000×2+30、000×2+33、000×2=1、618、000

4  前記したように、原告の本件請求については、二割の過失相殺をするのが相当であるから、原告が被告に対して支払を請求することができるのは、二六三二万三二〇〇円に限られる。

第六  結論

よつて、被告は、原告に対し、金二六三二万三二〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな平成二年六月一六日から支払済みに至るまで約定の年二割四分の割合による遅延損害金の支払義務があるので、原告の本訴請求は右限度で認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中康久)

《当事者》

原告 インペリアル・プレス有限会社

右代表者取締役 デヴイッド・ジャンペル

右訴訟代理人弁護士 三宅能生 同 長屋憲一 同 松田隆次 同 藤岡 淳

被告 株式会社教育社

右代表者代表取締役 高森圭介

右訴訟代理人弁護士 音喜多賢次 同 山口邦明

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